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【美術部】キャンバス地塗り実習①

大学院レベルの実習を高校美術部が体験しました。

本格的な品質のキャンバスを手塗りで制作しました。(写真1)キャンバスとは、油絵など、絵画に多く用いられている麻布のことです。今回は生の麻布の生地を木枠に張り、地塗りをする工程から行いました。絵画技法の歴史上、古くから伝わる最もポピュラーな技法を学ぶことにしました。
image001(写真1)

絵を描くためには土台が必要です。紙、板、キャンバスなど、様々な土台に描かれています。その土台のことを支持体(しじたい)と呼びますが、描画材料の種類によって、その支持体の選び方や描き方が変わってきます。
油絵を描くための支持体としては、キャンバス以外に板(パネル)も多く扱われています。キャンバスよりも歴史が古く、保存的にも丈夫ですが、キャンバスを支持体に用いた絵画は、板に比べて軽量かつ持ち運びの利点から、多くの画家に親しまれています。また、木枠を再利用できる点や、近年ではロールとしてキャンバスを入手し、個人レベルで張ることができる手軽さもあります。
高校美術部では油絵を描いています。油絵具の特徴を活かし、要領よく描き進めるためには、キャンバスの表面を工夫する必要があります。油分の吸収性や、表面の凹凸を調整する方法があります。油絵具を使って描く方法だけではなく、その下層のキャンバスのしくみを学ぶことで、今後の制作に活かせると思います。

それを知っているか、知らないかでは描き方も扱い方も変わりますし、絵の見方も変わってくるのではないでしょうか。

油絵を制作していると、次のような場合があります。
・キャンバスがゆがんでいる。きれいな長方形になっていない。壁に飾ったら、それに気が付いた。
・キャンバス布にしわが寄ってしまう。
・夏場に乾燥して木枠がねじれてしまった。
・絵具がなかなか乾かない。油絵具のくい付き(接着性)が悪い。
・表面の光沢感が強すぎて、描きにくい。仕上がりが安っぽく見えてしまう。油絵の表面をマット(つや消し)にしたい。

これらの問題は、キャンバスの制作方法を見直すだけでほとんど解決します。
絵画の構造を科学的な視点で検証しながら、キャンバスづくりの工程を美術部とともに学んでいこう。

(美術科 伊藤隆之)

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今回キャンバスづくりに用意した材料、道具(写真2)
生麻布、キャンバス用木枠、粉膠、重質炭酸カルシウム チタニウムホワイト顔料粉末、ビーカー、キャンバス張り器、ガンタッカー、タックス針、金槌、釘抜き、ハサミ、計り機、刷毛(熊毛)

image003(写真2) 

大型のキャンバス(F100号1620mm×1303mm)を制作。(写真3)
一般的なキャンバスの地として、白色地塗りを行う。
image005(写真3)

 木枠の組み立て → 生の麻布を張る → 布の目止め → 白色地塗り → 完成
Ⅰ.木枠に麻布を張る
① 木枠を組み立てる
木枠の内側から組む。金槌で叩いて、木枠の接合部に隙間が出ないようにする。金槌で叩く場合には、木枠を痛めないように必ずあて木をする。組みあがったらメジャーで対角線を確認。ゆがみがないか、確認。長方形になったら、接合部をガンタッカーの針で固定。
②麻布を採寸
木枠と同じ大きさの長方形を、鉛筆を使って麻布に描く。鉛筆の芯の先を織り目に沿わせて線を引く。麻布の織り目の方向によって湾曲している場合があるが、気にせず、線を引く。(写真4、写真5)その線を木枠と同じ辺の長さで区切る。麻布を木枠に張ったとき、布の縦糸、横糸の数が均等になった方が、キャンバスのねじれやゆがみが無くなる。
image007(写真4)     image009(写真5)

③麻布を裁断する
鉛筆で引いた線からさらに5~10センチ外側に線を入れ、編み目に沿ってハサミで裁断する。(写真6)
image011 (写真6)

④麻布を張る
鉛筆で引いた線を頼りに、麻布を手で引っ張り、木枠に張る。(写真7)手で引っ張った方が、キャンバスが仕上がったときに調度良い張り具合になる。キャンバス張り器で強く引っ張りすぎると、地塗り後、キャンバスの反りに大きく影響し、破損の原因にもつながる。鉛筆で引いた線が、木枠の外側に少しはみ出るように布を引っ張り、ガンタッカーを使って木枠の裏側で固定する。(写真8)布は織り目をよく見るとわかるが、織ったときの工程で縦糸と横糸の伸び方が異なる。布を引っ張ったとき、布が伸びる方向と、伸びない方向がある。まず、布は伸びる方向から引っ張り、固定する。伸びない方向は、無理に伸ばさず、鉛筆の線がそろうようにする。それに応じて針を打ち込む間隔を調整する。木枠の4つ角を先に固定すると目安になる。またこの段階で、麻布の4つ角の耳は、内側に折り込まない。(写真9、写真10)
 image013(写真7)  image015(写真8)  image017(写真9)  image019(写真10)

 

ここまで約2時間程度要した。1日目の工程終了。次回へ続く。