【海外研修】タイ研修旅行レポート③「国と国の間を生きる」
メーコック財団から市街地に出て、国道1号線をバスで1時間ほど北上するとメーサイに到着します。メーサイはタイの最北端のにぎやかな街です。国境を越えることが許されるなら、橋を渡ってタチレクというミャンマーの街に入ることもできます。
まず私たちは高台に登ってメーサイとタチレクを見下ろしてみました。サイ川という川が国境線なのですが、住宅の陰に隠れてしまっていてなかなか気づきません。建物の形や大きさも両国に違いはなさそうです。国境を渡る橋に目を凝らすと、クルマが列をなしているのが見えます。人やモノの往来が活発な様子がうかがえます。
高台を降りてその橋の近くに行ってみました。徒歩で行き来する人もいます。国境を越えてメーサイの市場に来て店を出し、夕方またタチレクに帰ってゆくという商売人は少しも珍しくないそうです。人々もまた多様で、市場では七つほどの言語が飛び交っているとのことです。ここで暮らす人たちには、国籍や民族を越えた関わりが自然に生まれているのです。
メーサイの市場を歩いてみました。みやげ物屋も少しはありますが、多くは日用品を売る店が並んでいます。
「国境なのだから、もっと緊張した雰囲気があると思っていました」
「何か平和な感じがしました」
自由散策から帰って来た生徒たちの感想です。日常的に往来があり人々が絶えず関わり合っている方が、国境周辺のあり方として普通のようです。「国境」と聞いて「対立」をイメージするのは、どこかで私たちがそのように刷り込まれてしまっているからなのかもしれません。
アブアリ財団はチェンライ市街で生徒寮を運営しています。この寮から通学する学生たちは、国籍を持っていません。国籍がないことは、社会生活を送る上で大きな不利になります。外国へ行けないどころか、県境を越えるのにも許可が必要です。省庁や大きな企業には就職できません。
アブアリ財団代表のアリヤ・ラッタナウィチャイクンさんは、アカ族の方です。山岳民の中に多くいる無国籍の子供たちの支援をしてきました。公用語であるタイ語を教えるところから始め、子供たちが安心して学校に通えるように生徒寮を作り、国籍取得の支援もしました。現在は主に山岳民族の高校生の就職支援をしています。
私たちはアリヤさんからアカ族についてお話をうかがい、また本校のみつばちプロジェクトのメンバーが活動内容を学生たちに伝えました。みつばちプロジェクトは学校の屋上で養蜂を行ない、その蜜を使って商品開発と販売をしています。春と秋の年に2回、保護者・教職員にむけてアブアリの活動のアピールとタイ産コーヒーの販売をし、その利益をアブアリの学生たちへの支援に充てるという形で関わってきました。
クリスマスが過ぎたばかりでお正月には早いですが、みんなでアカ族スタイルの餅つきをしました。あっという間にうちとけて、楽しい時間をすごしました。無国籍者だからといっていつも悲しい顔をしているわけでは全くありません。アブアリの学生たちは、自分の未来を切り開く気概に満ちているようです。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、2014年から10年かけて無国籍ゼロをめざす「#IBelong キャンペーン」を実施してきました。しかし、UNHCRの支援がアリヤさんに届くことはなかったそうです。私たちは草の根の活動を続けるアブアリをこれからも応援してゆきます。
メーサイでは、人々が国と国の間を越えて関わる日常を見ました。アブアリでは国と国の間にはさまれる学生の困難と希望を見ました。あまり気づきはしませんが、日本で暮らす私たちも国と国の間を生きています。外国にルーツを持つ方々がそばにいて、共に社会をつくっています。
この旅を通して、私たちはカレン族の方々(ホイヒンラートナイ村/第1回レポート)、山岳民の子供たち(メーコック財団/第2回レポート)、国境を渡る人たちと無国籍の学生(メーサイ、アブアリ財団/第3回レポート)と関わることができました。タイ研修に参加した生徒たちには、異文化の人たちとちがいを尊重しつつ、つながりを作ってゆく感覚を日本での暮らしの中で磨いてほしいと願います。(伊藤 豊)