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【高2国語】デザインは人々にどう影響するか? 〜学校の「あたらしい公共空間」を設計する〜

今年度の高校2年生文系「論理国語」「文学国語」(A・C組)およびGIC独自科目「Liberal Arts」(E組)では、「読む・書く・聞く・話す」の四技能をPBL(Project Based Learning)によって伸ばす授業を展開しています。その目標は、大きく分けると以下の3つです。

■ 「世界の見え方」を変える。そのための「目」を持つ。
■  経験知(自分で考えやってみる)/共有知(既に世界にある知)から新たな視点を得て、世界の構造を把握する。
■ 学びで得た新たな視点や知識を用いて、自らの当事者性をもとに新たな世界を創造する。

「デザインは人々にどう影響するか?」PBL全体の流れ

アドバンストクラス文系のC組では、上記に加えて、学術的な文章と格闘する力、クリティカルに議論する力、論理的に書く力、高度な知識へアクセスするための背景知識の獲得を目指しています。
今回はそのC組の2学期第1ターム(6コマ分に設定)「デザインは人々にどう影響するか?」におけるPBL授業をご紹介します。

① 人々を繋げるデザイン/排除するデザインの探索 ―― まずは、自分で考える

デザイン探索中…

まず行うのは、「自分たちの頭/目線で考える、やってみる」ことです。ここでは、デザインが人々に与える影響を考える前に、「繋げる」「排除する」という視点をヒントに、実際の街中や学校内に散りばめられているデザインを収集します。
その後、集めてきたデザインについて、それらはどのように人々を繋げる/排除するのか、自分たちの思考で分析を行いました。

文章読解から始め、高度な知識を講義で身につけることもできます。ですが、まずは自分自身で考え、頭と身体を動かしてやってみる。そのことで、後に知識に出会った時に、自分の「世界の見え方」が変わる瞬間に出会えます。

生徒が見つけた学校内の「繋げるデザイン」

生徒が見つけた街中の「排除するデザイン」

② 文章を読んで「世界の見方」を知る ―― 読み、議論し、分析し、書く

たくさんの事例を集めた後は、それを分析するための視点=「世界の見方」を手に入れます。グループで文章を読み、そこでの指摘をもとにして、実際に自分たちが集めてきた事例を分析します。

<実施したワーク>
1.「プレイスメイキング」の思想を説明した文章を読み、集めてきた「繋げるデザイン」を分析する
2.「排除アート」について考察した文章を読み、集めてきた「排除するデザイン」を分析する

文章から読み取った知識を使って、自分たちが集めてきたデザイン事例を実際に分析してみる。そのことで、はじめに自分で考えた答えが更新され、「世界の見え方」が変わります。
単に文章読解力を獲得するだけではなく、それを応用し「生きた知識」として活用できるようになっていく。知識とは「世界を見るためのレンズ」であることを体感しながら学びます。

文章に書かれていることを議論し、まとめてから…

それを使って自分たちの意見をまとめます

③ デザインの権力性について考える ―― よりクリティカルな知識に挑む

ここまでの実践を経て、高レベルな文章に挑みます。よりクリティカルな人々、社会を揺るがし、根底から変えてしまうような「世界の見え方」を作り出してきた人々の目から、世界はどう見えているのか。
今回は、デザインの背後に潜む「権力性」について探る文章に挑戦しました。その中で、「パノプティコン」や「規律訓練」「生―権力」といった、大学入試問題にも出題される批評用語やアカデミックな概念も「少し背伸び」で考えてみました。
それはリベラルアーツへの入口でもあります。知識だけを切り取れば大学レベルです。しかし、それらは誰かが「世界の見え方」を変えようとし、格闘した、その果てに残された新たな「世界の見方」でもあります。
それを使ってみれば、今までと同じ世界がまったく違って見える。難解な理論や知識も、そうした誰かにとっての「世界の見え方」を変えるものである。そうして、これまで人類が蓄積してきた「知」にアクセスすることで、自分たち自身の狭い世界から自由になっていきます。

ロールプレイを交えながら、アカデミックな概念に挑戦

④ 学校の「あたらしい公共空間」をデザインする ―― 実践に基づいて思考/試行する

最後に、実際にデザインをしてみる、という試行を行います。

<実際の問い>
1.学校の中に「あたらしい公共空間」を作るとしたら、どのような空間をデザインしますか。空間の具体的な説明を200-300字程度で述べてください。
2.その空間は、
① そこを利用するどのような人々を対象にするか
② 人々のどのような意思や行動を、どのようにコントロールするか
③ その結果、その空間はどのような空間になるといえるか
また、
④ それをどのようなデザインとして込めたのか(このグループのデザインの意図)も含めて、600-800字程度で述べてください。

この活動を行うことで、「分析する」「読み取る」といった受け手視点だけでなく、そこから得た知を使って「創り出す」という作り手視点にも立つことができます。
それは、まずは自分たちで考え、世界を見るレンズを手に入れたうえで、それを使って創造を試みるという、学びから創造へのプロセスです。
このプロセスを辿ることで、生徒たちは自らの生きる世界から出発し、そこから自由になり、深く、応用可能な知識を得て、新たな世界の創造へと向かってゆきます。

作り手の側に立ち、議論を進めます

ここまでのワークを経ると、「デザインは人々にどう影響するのか」という〈「正解」のない問い〉にも、生徒自身の力で辿り着き、彼らなりの答えを出すことができるようになっています。

自らシコウし、自ら学びの場を構築していきます

いまあるものをただ受け身になって消費し続けるのでも、過去を軽視したまま「クリエイティブ」を主張するのでもなく。いまある世界に向き合い、自身の思考と先人たちの知を統合し、新たな世界を創造してゆく。この授業は、そうしたシコウ(志向/思考/試行)の場であることを目指し、展開しています。

文・土屋遥一朗(国語科・GICリベラルアーツ担当教諭)