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44年目の11月15日

今から60年ほど前、気象学者のエドワード・ローレンツはコンピューターを用いて気象予測を正確にする試みを行っていた。コンピューターに数値を打ち込んでは、その結果を解析する作業を繰り返していた。1961年、コンピューターが一度目と二度目でまったく異なる結果を算出した。コンピューターが壊れたものと思ったローレンツだったが確認をしたところ、初期値の入力がごくわずかに異なっていることに気が付いた。普段は誤差として処理されるものが、ある場合にだけその違いがまったく異なる結果を導き出す。ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こすという「バタフライ効果」と後に言われるものが発見された。

これらと同じような事例は様々な分野で確認をされていた。それぞれの研究者が相互に意識し合うことにより「カオス論」が生まれてきた。
「秩序」と呼ばれている世界のすぐそばに秩序を超えた深い世界が広がっている。既存の秩序からは「カオス」としか表現できないが、そのカオスにも大きな秩序があるのではないか。ことによるとカオスの方が大きな世界で、その隙間の小さなところで人は「秩序」と呼んでいる世界にしがみついているのではないか。
わずかな違いで、この世界は私たちが予想もしない方向へ走り出す。


11月15日。横田めぐみさんが拉致されて44年目を迎える。
何も進展しないかのような現実と私たちは向き合っている。めぐみさんの弟、拓也氏は聖学院の卒業生でもある。何も変わらない現実の前にあって、私たちも無力さを感じ、あきらめの思いにすら囚われる。
初期値のわずかな変化で世界はガラッと変わる。
何もできない。確かにそうかもしれない。だがわずかな言葉、働きによって世界は思いもよらない動きを始める。
Only One for Others
私にしかできないこと。
私だからできること。
その小さな働きが世界を変えていく。