【シリーズ:聖書の思考回路】第3回
「神なんていない」
その現実から聖書の執筆者たちはひとつの思考回路を編み出していきます。
聖書は沢山の書物の寄せ集めだと言いました。
「思考回路」
これを有しているものが正典になったとも言いました。
この「思考回路」は聖書全体を支えている骨格、構造のようなものですから、表面の言葉としてとらえるのは難しいです。
ですが、時折、表面に現れることがあります。
最もよく現れた形。
思考回路をよく表現している言葉。
それはモーセの「十戒」です。
「十戒」は出エジプト記の20章に収められている言葉です。
エジプトで奴隷になっていたイスラエルの民はモーセに導かれエジプト脱出をします。
約束の地カナンを目指す道中で神様からいただいた「戒め」が十戒です。
バビロニア帝国との戦争に破れ、途方に暮れているリアルのイスラエルとこの物語の場面設定は重なっていると感じます。
物語を通してリアルを語る。
聖書の特徴でもあります。
神様からの十の戒めは、どこかで聞いたことのあるような言葉ばかりです。
「私の他に神があってはならない」とか「盗んではならない」とか「殺してはならない」など、当たり前のことを言っているかのようなものです。
私たちが手にしている聖書の翻訳は「何々してはならない」となっていますが、実は翻訳の可能性としては他にもあるのです。
「あなたは何々しない」です。
「あなたは盗まない」「あなたは殺さない」等々です。
十戒の言葉は「聖書の思考回路」が浮上してきたものだと言いました。
それはこのもう一つの翻訳をしたときに明解に表れてきていると思われます。
この「あなたは何々しない」という言い方は論理学の分類でいうと「定言命題」というものに当てはまります。
実は聖書はよく読んでみると大切なことを言うときは「定言命題」の形をとっているのです。
単純な例を記すならばイエス様の山上の説教「あなたは地の塩、世の光」。
これも定言命題です。
命題というと「ものの言い方」のように思われるかもしれませんが、言い方に注目をしようというのではありません。
その言い方を生み出している「ものの考え方」「哲学」を掘り起こしたいのです。
定言命題にはどんな哲学あるのか。
それが Only One 「聖書の思考回路」につながっていきます。
次回から「定言命題」の背後にある哲学についてお話をいたします。