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創立114周年記念式典式辞

「あなたがたを耐えられないような試練に遭わせられることはなさらず、試練と共に、それに耐えられるよう、逃れの道をも備えていてくださいます。」(第一コリント人への手紙 10章13節)

今回の新型コロナ感染症という想定外の出来事をはじめ、私達の人生には、楽しいこと、嬉しいことばかりでなく、色々な悩みや困難が起こってきます。しかし、その困難がただ苦しみや悲しみだけで終わるのではなく、私達の人生に大きな益をもたらすものに変えられるのだと、聖書は約束しています。

このコロナ禍での経験は、決して無駄ではなく、かえって益(良いこと)―私達の豊かな肥やし・人生の味わい―に変わる時を神が既に準備されていると私は思います。

 

皆さんは、みの虫や青虫が、やがてさなぎになり、そのさなぎがやがて皮をやぶって、蝶々になって出てくるのをご覧になったことがあるでしょうか。私はYouTubeでその様子を撮影した記録をみたことがありますが、生命の神秘に感動してしまいます。誰から教わったわけでなく、さなぎの殻を少しずつ破り、破れた部分から足を出し、羽を出してくるのです。あの青虫がどうしてこのような美しい蝶になりえるのか、人知を超える現象です。

さらに驚くことは、ある大学の研究グループが、この蝶々がさなぎから脱皮するのを、ハサミやピンセットを用いて助けてやったそうです。そして、その蝶々を机の上に並べました。その蝶々はどうなったでしょうか。何と一匹も飛ぶことが出来なかった、と言うのです。研究グループの人たちは、この実験を通して、外部からの助けによって脱皮した蝶々は、一匹も飛べないことを発見したのです。

蝶々は、さなぎから脱皮する時に、もがくことを通して、実は次の段階の「飛ぶ」という力を身につけていくのです。ですから自分で皮を破って出てくるのではなくて、人の助けを借りて出てきた蝶々は飛ぶことが出来なかった。その蝶々は、もがきながら押したり引いたりする動作を手抜きしてしまったので、結局、飛ぶ力を身につけることが出来なかったのです。これは私たち人間にも言えることではないでしょうか。神様は、試練の中でもがき苦しむことを通して、私たちを鍛え、次のステップへと進むことが出来るようにして下さるのです。

 

「悩み」の裏側は「望み」

「悩み」「望み」は、コインの裏表と言われることがあります。「悩み」の裏側には、「望み」があり、「悩み」を突き詰めていくとその先に「望み」が見えてくるというプラス思考の見方を表しています。

私はNHK連続テレビ小説『エール』を見ているのですが、この数日のお話しの中で「悩み」の先に「望み」があることを知らされています。昭和という激動の時代に、人々の心に寄り添う曲の数々を生み出した作曲家・ 古関裕而とその妻をモデルにした物語です。彼は太平洋戦争中、「暁に祈る」や「露営の歌」「若鷲の歌」など、戦地に向かう若い兵士たちの士気を高める名曲を作ったのですが、その結果として彼らを死に追いやってしまったという罪責の念で悩み続け、戦後2年間作曲ができませんでした。彼は悩みに悩み抜いて、遂に戦後の廃墟の中で必死に生きようとしている人々を励まし、彼らに望み、希望を与える歌「長崎の鐘」や全国高校野球大会の歌「栄冠は君に輝く」などの名曲を作ったのです。自ら悩み悩んでその先にある励ましと希望を指し示したのです。

コロナによって、日本のみならず全世界において、日常の生活様式や価値観が大きく変わってきています。これまでに経験したことのない試練の中に置かれています。学校教育においても、様々な戸惑いと迷いの中を生きていかなければなりません。

学校教育においても「不易流行」すなわち、変えてはならないものと変えなければならないものとを見分ける知恵をいただきたいと思うのです。本校の建学の精神であるキリスト教に基づく教育理念 Only One for Others を変わることのない建物の基礎とし、一方、「流行」としては、日々進化している21世紀の新しい教育の形、すなわち、ICT教育とグローバル教育を進化させていくことに力を注いでいきたいと考えています。皆さんと共に明日からの新たな創立115年目の歩を始めていきましょう。